深夜の3時を回る頃、いつものラーメン店で数人の男達は何が楽しいのか、「蛙のうた」と「静かな湖畔」の輪唱と、「ドミソ」の和音だけを何回も繰り返し、酔いも手伝い、皆大笑いしていた。
そんなある日、その男達に作曲家であり自ら「六本木男声合唱団倶楽部」を率いる三枝成彰氏が声をかけた。
「ロクダンのような男声合唱団を名古屋でも創ってみないか・・・?」合唱経験など全くない自分達がステージに立ち、歌うことなど露ほども考えていなかった男達は、「自分達では無理です!三枝さん!」と即答した、が・・・。
この一件以来、何かしら男達の空気は変わっていった。
時は経ち、男達はあるお宅でのホームコンサートを鑑賞した時、歌い終えたばかりの一面識もないソプラノ歌手に、「僕ら男声合唱団を創るので指導して頂けないですか?」と、唐突に声をかけた。新しいナンパの手口かと戸惑っている彼女に、「プロフィールをみると東京芸大卒ですね!先輩の三枝先生が今度名古屋に来るから、一度会っていただけませんか?」と、更に追い打ちをかけた。
ソプラノ歌手は大きな瞳をくるくるさせながら、主催者のご主人にたずねた。
「この方達は誰で、何の事をおっしゃっているんですか・・・?」
その主人いわく「この人たちは決して怪しい人ではないよ・・・。」
ソプラノ歌手は、この瞬間未知の領域への扉を開くこととなった。
男達は幸運にも「磁力となり得る美人指揮者」には巡り合えたが、もう一つの必須事項である「一国一城の主たちを束ねられる人格者の団長」探しには難航していた。
男達の気持は「ホーユー社長の水野新平氏以外は考えられない!」だった。それぞれに面識のある水野氏を数人で訪れ「男声合唱団を創るので団長を引き受けて頂けないでしょうか?」と切り出すが「団長とかの話の前に、私がステージに立って歌を聴いて頂くってことはあり得ませんから」と、にべもない。しかし男達はあきらめることなく、あの手この手・あの人この人を通じアプローチをし続け、その結果、創団より一年半後ついに念願の「水野団長」が誕生したのである。
このお二人の「同意」を得てサカダンの姿が初めて形になった。
ほんのわずかな必然と、とても多くの幸運を元にサカダン物語は始まる・・・。
<その後のサカ団物語・その一>
2006年10月に産声を上げた、合唱経験が全く無い男達が集まった合唱団は、「埴生の宿」1曲を歌えるようになるまでに3か月もかかった。それにも関わらず、二曲目の「見上げてごらん夜の星を」の練習を始めたばかりの頃、森本先生の心配をよそに、メンバーの一人がオーナーである蕎麦工房のオープニングでの出演が決まり、わずか結成4か月で、初のライブを披露してしまった。
翌2008年3月には現在の活動方針のきっかけとなった、初のデイサービスでの演奏会が行われた。その頃には団員の数も30名を超え、個人差はあるもののわずかながらの成長も感じられた。
デイサービスセンターの会場で団員を迎えてくれたのは、まさしく自分の父親、母親と同世代の方たち。まるで両親に向けて歌っているような錯覚に落ちいったある団員は2年前に亡くなった父親を思い出し、突然歌が歌えなくなった。
そしてその姿を見た一部の団員も声を失った。
歌のレベルがまだまだの合唱団に対して、最後まで暖かい一生懸命の拍手を送られ、結局センターの皆さんを励ましに来たつもりが、こちらが励まされたのだ。
その日の打ち上げで皆から声が上がり、団の活動の中心が「訪問演奏会」に決まった。
以来年間3回ほどの訪問活動と、5月の「栄ミナミ音楽祭」、10月の「なごやまつり」、12月ナディアパークでの「クリスマス・ライブ」等、年間の演奏活動が定例化された。
そんな中2010年の秋、5周年記念演奏会の開催に向け特別チームが結成され、具体的な準備作業が始まった。
そして、いよいよ日程も2012年2月26日、電気文化会館と決まり、具体的な目標が定められた団員のモチベーションはますます燃え上った。多忙なメンバーにもかかわらず定期練習への参加率も急上昇が続き、ハードな強化合宿もほぼフル参加のもと行われるまでになった。
そんな矢先に思わぬ出来事が・・・・。
2011年12月1日、3か月後に開催される5周年演奏会を大変楽しみにしていたわがサカダンの団長、水野新平氏が逝去されたのだ。
検査入院と聞いていた団員は、突然の訃報にその衝撃の大きさから立ち直れず、5周年演奏会も中止せざるを得ないかという非常事態となった。
しかしその時、ご遺族からの申し出があり社葬での合唱披露と5周年演奏会の開催を要請され、水野団長に奉げる演奏会として実施することとなった。
結果、5周年演奏会は大成功!
この6年間団員のわがままに付き合ってくれた家族を招待しての、
5周年感謝祭パーティーも大成功!
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わが身を顧みないステージ回数
練習時の発声量よりも大きい練習後の宴席での発声量
身の程を超えた選曲の数々
自分のことをさておいて、他のパートの失敗は大笑い
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そんな57人の男たちの声が聴こえる
2017年3月、渾身の10周年コンサート開催予定!
乞う!ご期待!
続く
2017年3月18日(土曜日)
SHIRAKAWA HALL
三井住友海上しらかわホール(名古屋・伏見)